AIの発展により、汎用的な作業がこなせるロボットの実現も可能になりつつあります。我々の身近で身体を持ったAI、つまりフィジカルAIが活躍する時代では、人間に危害を加えないことはもとより、回りにある物を壊さないなど、AIによる物理的な行動への高い信頼性が強く求められます。そのためには、AIを処理するプロセッサとは独立に、AIが実施しようとする行動をチェックし、その結果に基づいて実際の動作制御へと繋げるための、高い信頼性と高いセキュリティ機能を持つ専用のCPUが必要になると考えています。そのCPUのアーキテクチャを考える研究を行っています。
科学技術計算やAI処理など、多くのアプリケーションは演算処理よりもメモリアクセスがボトルネックとなり、性能があがりません。そこで、メモリの内部、あるいは極近傍で計算処理を行うProcessing-in-Memory (PIM)のコンセプトが注目を集めています。簡単な処理は、プロセッサではなくメモリ側で行うことでメモリアクセスにかかる時間や電力を抑えることが可能です。本研究室では、SRAM内部でデジタル演算を行いAI処理を加速するアーキテクチャや、加速機構のプログラミングとして広く用いられているGPUプログラミングによりPIMを効率的に制御する手法などを研究しています。
量子的な現象を利用した量子コンピュータは様々な分野での活用が期待されるため、世界で盛んに開発が進められていますが、その実用化においては計算を行う素子である量子ビットにエラーが生じやすいため、エラーを修正しながら計算する誤り耐性技術の開発が必要とされています。我々は高速・低消費電力で動作する超伝導回路を用いて、極低温環境で動作可能な復号器を開発しています。特に、量子ビットにエラーが生じると即座に訂正を行うことでエラーの蓄積を防ぐオンライン復号を世界で初めて提案しています。この手法により異なる温度環境間の配線を減らし、量子コンピュータのスケーラビリティを飛躍的に向上させることができると期待されます。
GPUなどの演算加速装置を活用して、高速な演算処理やシミュレーションを行う技術について研究をしています。例えば、最近ではGPUにはAI処理向けに、専用の行列演算のハードウェアが搭載されていますが、ビット幅が小さいため、高い数値精度が必要な演算はできません。そこで、近年では「尾崎スキーム」などの低精度な行列演算を組み合わせて高精度な処理を行う技法が注目されています。それらの手法を応用したシミュレーション向けのソフトウェアの検討や、基盤モデルをベースに特定の用途に特化したモデルを学習するFine-Tuningの手法について研究を行っています。。
倉庫内や工場で物の運搬を担うAGVや、将来の技術として期待される自動運転ロボタクシーなど複数のエージェントが協調しつつ、お互いの衝突や渋滞をおこさずに経路やタスクの割り当てを最適化する問題には社会において重用な一方、組み合わせ数が膨大なため現実的な時間で良い解を探索するのは難しいとされています。そこで、TransformerベースのAIモデルを応用し、強化学習手法と組み合わせてこれらの最適化問題を高速に解く手法を検討しています。例えば、各配送先に時間内に配達するための配送計画問題のために、時間窓を扱える時間新しいTransformerモデルの開発を行っています。
ナーススケジューリング問題は、多くの数で複雑な制約を持つ勤務表へのシフトの配置を扱う問題であり、組み合わせ最適化問題の中でも良い解を導き出すのが難しいとされている問題の一つです。本研究室では、強化学習を利用して解を導出する手法や、言語モデルを応用して人の思考を細かく取り入れつつ複雑な制約を満たすよう解を生成するAIのファインチューニング手法の研究に取り組んでいます。
IoT時代に重要な役割を果たすセンサなどのエッジデバイスは、小規模なバッテリー駆動、あるいは環境発電を利用することが多く、長時間稼働のためには効率的に電力を管理しつつ処理を行うことが求められます。我々は、環境発電を利用する無線センサーノード(Energy Harvesting Wireless Sensor Node: EHWSN)を対象に、強化学習を用いた自律的電力制御手法を研究しています。強化学習により、センサデバイスが置かれた環境に特化して自身で最適な電力ポリシーを学習できるため、膨大な数のセンサーデバイスの個々に最適化する必要がありません。今後のIoT時代に強化学習を利用したシステム最適化は有効な手法になると考えられます。