研究内容紹介

コンピュータアーキテクチャの研究

AIアクセラレータSNACC

Convolutional Neural Network (CNN)などのAI技術は、今や我々の身近なサービスにも利用されるようになりました。CNNの実行は演算の処理量が多く、携帯端末などのエッジデバイスで実行する場合には演算性能の不足や消費電力の制約が問題となります。我々は、エッジ環境向けにCNN実行を高電力効率で実行可能なAIアクセラレータであるSNACC (Scalable Neural Accelerator Cores with Cubic-integration) を開発しています。SNACCは、無線通信によりLSIチップ間で通信するTCI (Thru-Chip Interface)技術を搭載し、複数LSIを3次元に積層することで性能をスケーラブルに拡張できるという特徴があります。

Graph-SLAM アクセラレータ

Simultaneous Localization and Mapping (SLAM)は自己位置推定と環境地図作成を同時に行うアルゴリズムであり、ロボットのナビゲーションや自動運転など多くのアプリケーションで利用されいています。その中でも、センサ情報から取得したランドマークと自身のポーズをグラフ構造で表現して位置とランドマークの誤差が少なくなるように最適化を行うGraph-SLAMは、計算ややメモリアクセス処理が重く、バッテリ駆動のロボットなどで実行するのは大変です。そこで、オペランドの精度を制御して演算するなどの工夫により、位置推定精度を悪化させない範囲で消費エネルギーを削減できるようなアーキテクチャやソフトウェア実装を、GPUやFPGAを用いて研究しています。

スマート社会向けCPS (Cyber-Physical System)処理基盤

脳型計算による経路探索手法

現在地から目的地へたどり着くために障害物を避けつつ最適な経路を導き出す経路探索問題は重要なアプリケーションです。実世界では、歩行者や車など移動の際に障害物となる物体も異動していることが一般的ですが、移動する障害物を避けつつ最適な経路を導き出すのは簡単ではありません。本研究室では、Spiking Neural Network (SNN)という脳型計算手法を用いて、移動する障害物が多数存在する中でも、高速かつ省電力に経路探索を行える手法を研究しています。

オンデバイス学習による異常検知

機械学習技術は様々な応用で利用可能な一方で、高い精度を得るには多数の教師付きデータが必要です。エッジで得られるセンサーデータは、たとえ応用領域や対象が同じであったとしても環境に応じて異なることも多く、全ての環境で教師データを集めることは困難です。そこで異常検知を対象に、我々は教師データを必要とせず環境に設置するだけで自身が学習を進め、正常と異常を判別するオンデバイス学習技術を研究しています。これまでに、機器の振動の異常や防犯カメラによる異常行動の検出、サイバーセキュリティの攻撃検知などへと応用し、その効果を実証しています。この研究は、慶應義塾大学情報工学科の松谷研究室と共同で実施しています。

強化学習によるIoTシステム最適化

IoT時代に重要な役割を果たすセンサなどのエッジデバイスは、小規模なバッテリー駆動、あるいは環境発電を利用することが多く、長時間稼働のためには効率的に電力を管理しつつ処理を行うことが求められます。我々は、環境発電を利用する無線センサーノード(Energy Harvesting Wireless Sensor Node: EHWSN)を対象に、強化学習を用いた自律的電力制御手法を研究しています。強化学習により、センサデバイスが置かれた環境に特化して自身で最適な電力ポリシーを学習できるため、膨大な数のセンサーデバイスの個々に最適化する必要がありません。今後のIoT時代に強化学習を利用したシステム最適化は有効な手法になると考えられます。

エッジ・クラウド連携処理基盤

エッジコンピューティングでは、その時々の状況や場所などの環境条件に合わせて処理をすることが必要になりますが、性能やQoSへの要求も状況に応じて変化します。そのようなアプリケーションの例として人の行動追跡や交通網、ヘルスチェッキングなど多様なものがありますが、関連性などを表現可能なグラフデータ構造で扱われるものが多くあります。我々はグラフ処理やグラフデータ構造を利用するアプリケーションを対象に、エッジ・クラウドを連携させた処理基盤について研究を行っています。

クライオジェニック(極低温)コンピューティング

量子コンピュータ向けの超伝導回路による量子誤り訂正手法

量子的な現象を利用した量子コンピュータは様々な分野での活用が期待されるため、世界で盛んに開発が進められていますが、その実用化においては計算を行う素子である量子ビットにエラーが生じやすいため、エラーを修正しながら計算する誤り耐性技術の開発が必要とされています。我々は高速・低消費電力で動作する超伝導回路を用いて、極低温環境で動作可能な復号器を開発しています。特に、量子ビットにエラーが生じると即座に訂正を行うことでエラーの蓄積を防ぐオンライン復号を世界で初めて提案しています。この手法により異なる温度環境間の配線を減らし、量子コンピュータのスケーラビリティを飛躍的に向上させることができると期待されます。

次世代スーパーコンピュータ

次世代スーパーコンピュータのアーキテクチャ探索

スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは気象予測や創薬、ものづくり、そしてAI技術など様々な分野で利用されています。より高度で正確なシミュレーションに向けて、アプリケーションはより高い性能を要求しています。そのためには、最先端の技術を結集して大規模システムを構築するためのアーキテクチャの研究は欠かせません。現在世界一位の性能を誇るスーパーコンピュータ「富岳」の次世代にあたるシステムの開発を目指して、その要素技術の調査やアーキテクチャの探索、アプリケーションとのコデザインに関して研究をしています。この研究は、理化学研究所計算科学研究センター次世代高性能アーキテクチャ研究チームにおいて中心的に行っています。